「長らくマンネリ化していた管理職研修。改革を図るなら今だ」

新型コロナウイルスによる大混乱の中、多くの企業が予定していた階層別研修のプログラムの変更を余儀なくされました。この苦難の時期は、急遽調達したオンライン研修やeラーニングなどでしのぎ、まさに今、ニューノーマル時代に向けて改めて態勢を整えようとしている企業は多いのではないでしょうか。そして、そんなVUCAの時代を生き抜くマネジャーとはどうあるべきでしょうか。

本稿では、これからの管理職に求められる役割・能力、管理職研修の種類と内容、効果的な管理職研修を実施するポイント、外部に委託する場合の費用の相場などを紹介します。

ピンチをチャンスとし、自社の将来像を見据えたより良い管理職研修を実現していくための一助になれば幸いです。

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なぜ管理職研修が必要なのか

そもそも、なぜ管理職研修が必要なのでしょうか。

社会の変化に適応するため

管理職研修は、企業で実施される研修の中でも難易度と重要性が高く、それゆえに内容が固定化しがちな領域と言えます。ここに思い切った改革を行うことは、ただでは転ばない、ピンチをチャンスに変えるアクションと言えるでしょう。

実際のところ、管理職に求められる役割は、昔と今ではずいぶん異なっています。

内閣官房の公表資料によると、経営トップに、自身がミドルマネジャーだった頃と現在を比較して、重要だと考える管理職の役割を尋ねた結果、「変化」への対応やそれを見据えた部下への指導が1位と2位を占めました[1]

表)経営トップが考えるミドルマネジャーの役割(昔と現在の比較)

自分自身がミドルマネジャーだった頃に重要度が高かったもの現在、重要度が高いと思うもの
1位 組織や部署が直面する様々な課題を解決する1位 経営環境の変化を踏まえた新しい事業や仕組みを自ら企画立案する
2位 部下に必要な業務指示・指導を行ない、その進捗状況を管理する2位 部下のキャリア・将来を見据えて必要な指導・育成をする

現在の管理職は、従来とは異なり、変化への対応や新しい価値の創造、人材育成の役割を果たす必要性が高まっていると言えるでしょう。

管理職の従業員本人を成長させるため

管理職である従業員自身を成長させることも必要になります。優秀なプレーヤーが管理職に昇進した場合、それまでの経験が通用しないことも多く、周囲に相談することもなかなか難しい状況に陥りがちです。適切な研修や面談などによる十分なサポートが必要になります。

部下となる従業員の生産性を向上させるため

次に、部下のためです。中堅社員や若手社員が、悩む上司の姿を見れば、管理職にはなりたくないと考えることもあるでしょう。彼らが将来のキャリアや仕事へのモチベーションをダウンさせ、それが部署やチームの生産性を低下させる、という悪循環を防ぐためにも、管理職の教育は重要です。

企業の成長のため

最も大きいのが、企業の成長のための必要性です。管理職は経営層と現場をつなぐ存在です。経営層のビジョンや戦略をしっかり理解し、部下たちに落とし込める人材を育成しなければなりません。

企業の業績は、管理職が組織の中の「ハブ(要)」としての役割をこなせるかどうかに左右されます。上手に「ハブ」としての役割を果たせるようになるよう、管理職研修によるフォローが必要なのです。

図)管理職の「ハブ」としての役割と効果

管理職研修_管理職の「ハブ」としての役割と効果

管理職研修は大抵の企業で毎年行われており、前年の内容を踏襲することも多いでしょう。

しかし、社会の変化のスピードが速い現在、その時の現場の実態に合わせて、自社の管理職には何が必要か、どのようなサポートをするべきかよく検討し、効果的な管理職研修を実施する必要があります。

より効率的な研修実施のため、オンライン研修の活用も検討するとよいでしょう。ニーズの高まりから、オンラインや動画(eラーニング)の研修を提供するサービスは増えています。

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管理職研修で解決すべき課題

効果的な管理職研修をするには、管理職が抱える悩みや課題を知る必要があります。ここでは、代表的なものとして以下を取り上げます。

  • 部下の育成
  • チーム・部門の運営など
  • 他部署や関係者との連携
  • 自分の業務とマネジメント業務のバランス
  • 適切な評価

部下の育成

管理職にとって、部下の育成問題は常なる悩みです。

株式会社ラーニングエージェンシーの調査[2]によると、管理職の悩み1位は「部下の育成」(50.5%)で、5年前の調査時より10%増加し半数を超えています。

また、同調査では、「部下があまり成長していない」と感じている割合は5年前の約3倍となり、「部下が成長している」と感じている管理職は減少しています。

さらに、内閣官房内閣人事局の調査[3]では、管理職の1/4が「部下の育成に十分な支援をできていない」と感じていることも分かっています。

マネジメント行動のうち、十分な行動を執れていないと思う項目の1位が「部下のキャリア形成や人材育成に対する支援(25.4%)」だったのです。これは、業務の運営や人材活用といったその他の項目以上に高い割合の回答でした。

つまり管理職が、最も手応えや自信を感じられない項目が「部下の育成」ということになります。

そのうえ、一般職員からは、約4割が「上司が部下の育成に関して、十分なマネジメント行動を執れていない」と回答しています。部下からは、管理職が自覚している以上に「上司のマネジメントが課題である」という意見が出ているのです。

逆に言えば、部下の期待値は上司が思っている以上に高く、上司からの育成や支援を期待している、とも考えられるのではないでしょうか。

【部下のキャリア形成や人材育成に対する支援で、管理職がマネジメント行動を執れていると思う割合】

【部下のキャリア形成や人材育成に対する支援で、管理職がマネジメント行動を執れていると思う割合】

内閣官房内閣人事局「管理職のマネジメント能力に関するアンケート調査結果概要(最終報告)」,p7,を元にライトワークスにて作成,https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/kanri_kondankai/dai4/siryou2.pdf(閲覧日:2023年6月13日)

時代や状況が大きく変わっている中、部下の成長を見守るだけでは、十分なマネジメントができているとは言えません。管理職は部下の育成に対し、適切なアプローチや支援を行うスキルが求められているのです。

チームや部署の運営など

管理職は、チームや部署の目標を設定し、達成のためにメンバーをまとめ導くことが求められます。

適切な目標の設定、ビジョンを明確に伝えてチームを団結させることなどが課題となります。

他部署や関係者との連携

管理職はプレーヤーの頃よりも、交渉をする機会が増え、連携を図る必要のある部署・関係者も増えます。

交渉や調整をスムーズにこなす、関係各所にうまく協力を仰ぐことなどが課題となります。

自分の業務とマネジメント業務のバランス

管理職になると、それまでと異なりマネジメント業務を任せられます。その上で、現場の業務もこなさなければならない場合も多くあります。

その際に、マネジメント業務と現場の業務のバランスが課題となります。現場の業務に集中しすぎてしまうと、マネジメント業務がうまくいかなくなる場合があります。

適切な評価

評価は管理職の重要な役割の一つです。不適切な評価は部下のモチベーションを下げるばかりでなく、そのまま離職につながってしまう可能性もあります。

例えば、評価基準を明確に示した上で定期的な面談を重ねるなど、適切な評価の方法を学ぶ必要があります。

ここまで、管理職の悩みや課題を見てきました。特に管理職になりたての従業員は、マネジメント業務全般に大きな壁を感じることが多いようです。

次章以降では、これからの管理職にはどのような役割が求められるのか、壁を乗り越えるためにはどのようなスキルが必要なのか確認していきましょう。

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管理職に求められる役割

管理職には、どのような役割が求められているのでしょうか。まずは、管理職の職階ごとに求められる役割をご紹介します。また、2021年現在ならではの要素も交えて、今、そしてこれから求められる役割についても考えてみます。

職階ごとの管理職の役割

新任(初級)管理職、中間管理職、上級管理職では、求められる役割が異なります。

新任(初級)管理職

新任(初級)管理職は、一般的には主任や係長クラスを指します。マネジャーの役割を負いながらも、引き続き現場のプレーヤーとしても成果を求められるプレイングマネジャーとなることが多くあります。

中間管理職

中間管理職は、一般的には係長や課長クラスを指します。主に新任(初級)管理職のフォロー上級管理職の補佐をすることが求められます。

上級管理職

上級管理職は、一般的には部長や役員のことを指します。直接現場に関わる割合は少なくなり、経営者視点で組織全体のために判断・行動することが求められます。

職階が上がるほどに、高い人間力を活かして組織を上手に動かしたり、どれほど複雑な状況にあっても物事の本質を見極めて判断する、といった役割が大きくなっていきます。

そのため、管理職でも職階ごとに研修を行う必要があるといえるでしょう。

DX時代の管理職に求められる新しい能力

導入部分でご紹介した内閣官房の資料[4]の通り、現在の管理職には、本来の意味のマネジメントよりも、変化への対応や新しい価値の創造、そして人材を育成する役割の重要性が高くなっています。

具体的には、以下のようなことが考えられます。

・DX推進とイノベーションの創出
・多様な人材の育成と各々が実力を発揮できる環境づくり

DX推進によるイノベーションの創出と環境整備

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、データ・デジタル技術を活用することで、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化や風土をも変革し、企業の競争力を高めることです。

データ・デジタル技術の進歩は目覚ましく、DXは、どの業界においてもイノベーション創出の強力な手段になっていくでしょう。

今後の企業競争に勝つためには、DX人材の育成など社内の環境整備を行い、DX化の波に乗り遅れないことが重要です。

多様な人材の育成と各々が実力を発揮できる環境づくり

さまざまな要因で優秀な人材の採用が難しくなっている現在、人材育成の重要性はますます高まっています。

限られた人材をどのように活かしていくのか、管理職の役割は重大です。

性別や国籍、時短勤務など働き方にかかわらず、多様な人材が安心して実力を発揮できる環境づくりをしていく必要があります。

以上のように、時代や社会状況によって管理職の役割は変化してきています。

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新型コロナウイルスの影響による変化への対応

今後もしばらくは、新型コロナウイルスによる変化への対応が求められます。

具体的には、以下のようなことが挙げられます。

  • 臨機応変な対応
  • テレワーク導入の際の業務の整理
  • テレワーク下での部下の育成

臨機応変な対応

VUCAと呼ばれる近年のビジネス環境は、変化が激しく、予測不可能な事態が起こりやすくなっています。

そのため、企業はいち早く顧客のニーズの変化に対応し、競合他社より先に行動する必要があります。迅速に事を進めるために、権限委譲によって経営層に判断を仰ぐ過程を省略し、現場の管理職が決定を下す機会が増えているようです。

これは、新型コロナウイルスの影響でテレワークとなった場合でも変わりません。今までよりも部下や現場とのコミュニケーションを意識的に強化して情報収集に努め、迅速に適切な判断をすることが求められます。

テレワーク導入の際の業務の整理

新型コロナウイルスの影響で、一気にテレワークが広まりました。不自由な部分はあれど、テレワークの体制でも仕事が滞らないことが明らかになれば、将来的にも定着していくでしょう。

テレワークを導入するには、それまで見過ごされていた業務のムリやムダを整理することが不可欠です。これは、テレワークの体制整備のためだけでなく、今後も生産性向上やバーチャルチーム[5]のマネジメントなどにも必要なことだと考えられます。

管理職は経営層や部署・チームメンバーに働きかけ、ベストな環境づくりを進めることが求められます。

テレワーク下での部下の育成

第2章でご紹介したとおり、管理職の最大の悩みは部下の育成です。

前出のラーニングエージェンシーの調査によると、「部下が非常に成長している」と感じている管理職は、部下とのコミュニケーション時間を長く取っていることが明らかになっています[6]

しかし、テレワーク下では直接顔を合わせなくなり、ますますコミュニケーション不足となっています。他者とのつながりが希薄になり、孤独感を感じる従業員も多いでしょう。

テレワーク下では、特に「コネクション・カルチャー」[7]の醸成が大切です。オンラインで定期的に面談を行うなど、意識して部下とのつながりを維持し、コミュニケーション時間を確保しましょう。

新型コロナウイルスの影響で、企業は突然大きな変化に対応しなければならなくなりました。この先も同様のことは起こり得ます。

このような事態にスムーズに対応するため、管理職はどのようなスキルを身につけるべきか、次章で見ていきましょう。

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管理職研修の種類

管理職研修には、以下のような種類があります。

  • 新任(初級)管理職研修
  • 中間管理職研修
  • 上級管理職研修
  • 定期的な管理職研修

新任(初級)管理職研修

新たに管理職に昇進した従業員に対して、仕事の進め方や必要なスキルの教育を行う研修です。

チームや部署のメンバーの能力を伸ばし、成果を挙げることが自身の役割であること、自身の判断による影響や責任の大きさなどについて理解してもらうことが大きな目的です。

また、新任管理職は、プレイングマネジャーとなる場合も多くあります。そのため、プレーヤーとマネジャー、両方の視点での考え方・行動を学ぶことが重要です。

中間管理職研修

中間管理職には、大きく2つのことが求められます。

一つは、新任(初級)管理職のフォローです。研修では、特に組織マネジメント(第4章を参照)の知識を深めるとよいでしょう。現場の人材を直接まとめる新任(初級)管理職の支援に役立ちます。

もう一つは、上級管理職の補佐です。経営層に近い業務を行う上級管理職に有効なアシストをするには、常識にとらわれず変革を起こす力や、部下に上級管理職のビジョンを浸透させ、周囲を巻き込んで事を進めるリーダーシップなどを身に付けられるとよいでしょう。

上級管理職研修

上級管理職は、部門内での経営者的な役割を持ち、全体を見ながら戦略を立案・実行することが求められます。

中間管理職までの立場であれば、現場に関わる業務の割合はやや高めですが、上級管理職はより経営層に近い立場で仕事をすることになります。

上級管理職研修は、中間管理職までと上級管理職の役割の違いを理解し、より経営層に近い考え方や行動を身に付けることが大きな目的です。

定期的な管理職研修

管理職に必要なスキルを習得・維持するための研修です。

定期的に実施することで、着実なスキルアップだけでなく、その時の社会状況において求められる新たなスキルの習得も可能になります。例えば、近年ではセクハラ・パワハラやメンタルヘルスに関する知識などが注目されています。

リスクマネジメントの面でも、定期的な実施が必要と言えるでしょう。

以上のように、一口に「管理職研修」と言ってもさまざまな種類があります。上記のように、適切に対象を絞って管理職研修を行うことで、確実なスキルアップが期待できます。

さらに研修の効果を高めるポイントについて、次章で見ていきましょう。

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管理職研修で学ぶべき内容、カリキュラム

管理職の役割を果たすためには、以下のようなスキルを身につける必要があります。そのため、こういった能力を養成する研修内容が求められるでしょう。

  • 部下の育成・指導に係るヒューマンスキル
  • リーダーシップ
  • コンプライアンス
  • 業務管理
  • 組織マネジメント
  • リスクマネジメント
  • アカウンティングの知識

部下の育成・指導に係るヒューマンスキル

ヒューマンスキルとは、良好な対人関係を作るためのスキルです。

管理職が部下を適切に育成・指導するためのヒューマンスキルには、以下のようなものがあります。

1. フィードバック

相手の行動について自分の意見を伝えるスキル。部下のモチベーションやパフォーマンスアップに有効。

2. デレゲーション

上司が部下に自身の権限を分け与えて仕事を任せるスキル。部下だけでなく上司自身や組織全体も成長できる。

3. ダイバーシティ

ビジネス上では「多様な人材を活かす戦略」を指す。性別・年齢、国籍など、さまざまなバックグラウンドを持った人材を活かすことで個人や組織の成長を図る。

4. キャリアデザイン

人生においてどのように働き、どのようなキャリアを築きたいのか、理想の姿をイメージし、実現させるスキル。部下の相談に乗るために知識が必要。

5. アサーティブコミュニケーション

相手を尊重しつつ自己主張・自己表現をするスキル。相手を威圧したり、過度に気を使って言いたいことが言えないということがなくなり、円滑なコミュニケーションが可能になる。

6. チームビルディング

各自がスキルや経験を最大限に発揮し、目標を達成できるように良いチームを作り上げるスキル。

7. 傾聴

話を聞く際に、相手の立場になって共感や信頼を示すスキル。話し手の心を開き、聞き手との信頼関係を築くことが可能。

8. コーチング

相手の話を傾聴し、適切な質問や提案をすることで新たな気付きを与え、相手の成長を支援するスキル。相手の課題意識を高め、自主的に考え解決する力を身に付けられる。

9. ファシリテーション

会議やプロジェクトなどにおける話し合いを円滑に進行させるスキル。メンバーから多様な考えや意見を引き出して整理し、全員が納得できる結論を導く。

リーダーシップ

リーダーシップとは、メンバーや組織を目標達成に導く能力です。

部下を指導する管理職にはリーダーシップは必須です。リーダーシップは生まれ持った「性質」ではなく「スキル」であり、学習や経験によって身につけることができると考えられています。

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コンプライアンス

管理職になると、物事の決定権を持つことが多くなります。

自身の判断がもとでコンプライアンス違反となり、企業の信頼を損なってしまわないためにも、コンプライアンスの知識を身に付けておくべきでしょう。

管理職がコンプライアンスを順守する姿を部下に見せることで、部下のコンプライアンスに対する意識を向上させる効果もあります。

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業務管理

管理職になると、個人だけでなくチームや部署として結果を出すことが求められるようになります。そのためには、人員配置や予算の配分、進捗の管理を適切に行うことが重要です。

具体的には、部下に、どのような仕事を任せ、いつまでに、どのように取り組むのか、明確に示します。都度進捗を確認し、状況によっては軌道修正も必要です。

近年は働き方改革により長時間労働の是正が求められています。従来よりも短い時間で成果を出せるよう、効率を意識した工夫も必要になっています。

組織マネジメント

チームや部署をまとめ目標達成に導くには、組織マネジメントの知識が不可欠です。

組織マネジメントとは、一般的には管理職以上の人が、組織の活動がスムーズに行えるように企業の資源・資産・リスクなどを管理することです。

経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報を、どのように配分すれば最大の効果を得られるかを検討します。

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リスクマネジメント

組織だけでなく、リスクのマネジメントも重要になります。

リスクマネジメントとは、リスクを管理し、損失の回避・低減をはかるプロセスです。リスクによっては、企業の経営そのものやステークホルダーに大きな影響を与えます。

想定されるリスクを洗い出して評価し、予防策を検討・実施することが求められます。VUCAの時代に対応できる体制作りも課題です。

アカウンティング

前述の通り、管理職はヒト、モノ、カネ、情報の配分を検討し、自ら判断する機会が多くなります。その際に拠り所となるのものの一つが数字です。

アカウンティングとは、経理や会計報告のことです。財務諸表の数字から企業の状況を理解し、さまざまな機会に活用できるようになることが必要です。

以上のようなスキルを習得してもらうことで、これからの管理職に求められる役割を果たすことができるでしょう。

関連eラーニング教材:ビジネスの成果を数字で表すアカウンティング

参考)管理職に必要なスキルを体系化した「カッツモデル」

管理職に必要なスキルを体系化したものとして、「カッツモデル」があります。
これは、アメリカの経営学者ロバート・L・カッツ氏が提唱したフレームワークです。

「カッツモデル」を使えば、上に挙げたようなスキルについて、管理職の職階に応じてどのようなスキルが必要なのか、体系的に整理することができます。

図)カッツモデル 3つの能力と、3つの職階
管理職研修_カッツモデル
引用元)眞﨑大輔監修 トーマツイノベーション 編著『人材育成ハンドブック』,2017,p77を基に図を作成

カッツモデルでは、管理者の職階が低い順から「ロワーマネジメント」「ミドルマネジメント」「トップマネジメント」の3段階に分けられています。

さらに、必要なスキルが以下の3つに分けられています。
・テクニカルスキル
業務を遂行するための基本的な能力

・ヒューマンスキル
良好な対人関係を築き、円滑なコミュニケーションを取る能力

・コンセプチュアルスキル
全体を見る能力。物事の本質を見極め、具体的な方向性を定める能力とも言える

職階が低いときに重要なのはテクニカルスキルですが、職階が上がるとヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルがより重要になるとされています。

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効果的な管理職研修を実施するポイント

効果的な管理職研修を実施するには、以下のような点がポイントになります。

  • プレーヤーからマネジャーになる心構えを持ってもらう
  • さまざまな教育手法を検討する
  • 最適な時期に行う
  • 研修内容について受講者にアンケートを取る

プレーヤーからマネジャーになる心構えを持ってもらう

特に新任(初級)管理職の場合、プレーヤーからマネジャーへの意識の切り替えがポイントになります。

プレーヤーは、「環境の変化に対応し、与えられた仕事をこなすこと」が重要ですが、マネジャーは、「自身の判断・責任をもって変革を起こし、新たな仕事を創り出すこと」をしなければなりません。

また、人材として活用される側から、人材を活用する側に回ることになります。メンバーを育成し、企業の業績アップに貢献することが求められます。

まずは、このような違いを自覚してもらうことが大切です。

さまざまな教育手法を検討する

研修の形式は、座学だけでなく、実践性の高いワーク型もおすすめです。学んだことをアウトプットすることで、より知識を定着させることができます。

例えば、アクションラーニングという手法があります。アクションラーニングは、現実の課題を取り上げ、その解決に取り組むグループワークの一つです。

研修では、知識やスキルを学ぶだけでなく、それらの活用の仕方まで学ぶことが大切です。アクションラーニングは、さまざまなスキルの習得と活用を実践できる画期的な手法と言えます。

また、忙しい管理職には、ブレンディッドラーニングも有効です。ブレンディッドラーニングは、集合研修とeラーニングを組み合わせ、それぞれのメリットは活かしつつ弱点をカバーし、効果を高める学習方法です。

前提知識の習得をeラーニングで各自都合が良い時に進めておけば、集合研修の回数や時間を減らすことができ、通常業務に与える影響を最小限に抑えられます。他にも多くのメリットがある手法です。

自社の管理職の課題や業務形態に合わせて、最も効果的な手法を選ぶことが大切です。

最適な時期に行う

管理職研修は、昇格してからしばらく経った、2~3か月後に行うとよいでしょう。

昇格した直後は、まだ管理職の仕事についてイメージが曖昧なため、研修の内容を自分の中に落とし込んで活用することは難しいと考えられます。

2~3か月後であれば業務に慣れ始め、自分なりに業務上の疑問や課題が見えてくる頃であり、それらを踏まえて研修に参加することができます。

研修内容について受講者にアンケートを取る

研修終了後は、受講者にアンケートを配信するなどしてフィードバックをもらいましょう。

企画当時は最適だったプログラムでも、時代や企業の状況によって、求められるものは変化していきます。

改善を重ねることによって、より効果や満足度の高いプログラムにブラッシュアップすることができます。

なお、LMS(学習管理システム)を活用すると、スムーズにアンケートの配信・集計が可能です。

当社のLMS(学習管理システム)CAREERSHIP®では、アンケートやレポートの提出を研修フローに組み入れることや、アンケートの集計を自動で行うことができます。
それにより、担当者の手間や時間を削減しながら、受講者の意見を社内施策に活かすことが可能になります。

CAREERSHIP®「アンケート/レポート配信機能」イメージ

CAREERSHIP®「アンケート/レポート配信機能」4つの特徴
・多彩な設問形式に対応(ラジオボタン、チェックボックス、自由記述 など)
・回答は自動で集計されるため、面倒な集計作業は不要
・アンケート未提出者へのリマインドメールも自動配信
・コース機能との併用で、アンケートやレポートの提出を研修フローに組み込み可能。
    例:事前学習(eラーニング)→集合研修→研修後アンケート

LMSを活用し、できるだけ担当者の負担を軽減することで、研修内容のブラッシュアップに時間をあてることができます。

>>アンケート/レポート配信機能を詳しく見る

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管理職研修を外部委託する際の費用相場

管理職研修を外部委託する場合、気になるのが費用です。

管理職研修の場合、5名から10名ほどの受講者対象に、2日~3日間かけて行うものだと研修費は40~60万円が一般的な相場のようです。

研修提供企業によっては、自社に講師を派遣してくれたり、オンライン研修で実施などの対応もしてくれますので、まずは見積りを頼むとよいでしょう。

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まとめ

管理職研修がなぜ必要なのかというと、第一に、管理職である従業員のためです。プレーヤー時代の経験が通用しないことが多く、1人で悩んでしまう場合もあり、適切な研修や面談などによる十分なサポートが必要です。

第二は、部下のためです。部下である中堅社員や若手社員が悩む上司の姿を見て、将来のキャリアや仕事へのモチベーションをダウンさせ、それが部署やチームの生産性を低下させる、という悪循環を防ぐためでもあります。

第三は、企業のためです。管理職は経営層と現場をつなぐ存在です。企業は業績を伸ばすために、経営層のビジョンや戦略をしっかり理解し、部下たちに落とし込める人材を育成しなければなりません。

効果的な管理職研修をするには、管理職が抱える悩みや課題を知る必要があります。代表的なものとしては以下のようなものがあります。

  • 部下の育成
  • チーム・部門の運営など
  • 他部署や関係者との連携
  • 自分の業務とマネジメント業務のバランス
  • 適切な評価

管理職にはどのような役割が求められているのか、職階ごとに管理職に必要とされるスキルをご紹介しました。

・新任(初級)管理職(主任・係長クラス)
マネージャーの役割を負いながらも、引き続き現場のプレーヤーとしても成果を求められる(プレイングマネージャー)。

・中間管理職(係長や課長クラス)
主に新任(初級)管理職のフォローや上級管理職の補佐が求められる。

・上級管理職(部長・役員クラス)
経営者視点で組織全体のために判断・行動することが求められる。

また、昔と今で重視される役割は異なっています。現在の管理職には、本来の意味のマネジメントよりも、変化への対応や新しい価値の創造、そして人材を育成する役割の重要性が高くなっています。具体的には、以下のようなことが挙げられます。

  • DX推進とイノベーションの創出
  • 多様な人材の育成と各々が実力を発揮できる環境づくり

さらに昨年から現在、今後しばらくは、新型コロナウイルスによる変化への対応が求められています。具体的には、以下のようなことが挙げられます。

  • 臨機応変な対応
  • テレワーク導入の際の業務の整理
  • テレワーク下での部下の育成

管理職の役割を果たすためには、以下のようなスキルが必要です。

  • 部下の育成・指導に係るヒューマンスキル
  • リーダーシップ
  • コンプライアンス
  • 業務管理
  • 組織マネジメント
  • リスクマネジメント
  • アカウンティングの知識

管理職研修には、以下のような種類があります。

  • 新任(初級)管理職研修
  • 中間管理職研修
  • 上級管理職研修
  • 定期的な管理職研修

効果的な管理職研修を実施するには、以下のような点がポイントになります。

  • プレーヤーからマネジャーになる心構えを持ってもらう
  • さまざまな教育手法を検討する
  • 最適な時期に行う
  • 研修内容について受講者にアンケートをとる

管理職研修を外部委託する場合、5名から10名ほどの受講者を集めて2日~3日間かけて行うものだと40~60万円が相場となっています。

研修提供企業によっては、自社に講師を派遣してくれたり、新型コロナウイルス対策のためオンライン研修で実施などの対応もしてくれますので、見積りを頼むとよいでしょう。

経営層と現場をつなぎ、企業の業績アップに貢献する管理職の教育は大変重要です。ぜひこの機会に、管理職研修の企画を再考してみてはいかがでしょうか。

[1] 内閣官房 第1回 管理職のマネジメント能力に関する懇談会(平成28年10月25日)「経営トップが考えるミドルマネジャーの役割(昔と現在の比較、複数回答)」,『資料6 管理職に求められる「マネジメント」、管理職が執るべき行動の在り方について』, p13. https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/kanri_kondankai/dai1/siryou6.pdf (閲覧日:2021年7月19日)
[2] 株式会社ラーニングエージェンシー「【管理職1,070人の意識調査】管理職の悩みダントツ1位は「部下の育成」/”部下の成長を感じていない”管理職が5年前の3倍に」,2020年7月20日, https://www.learningagency.co.jp/topics/20200727_03(閲覧日:2021年7月19日)
[3] 内閣官房内閣人事局「管理職のマネジメント能力に関するアンケート調査結果概要(最終報告)」,p7,https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/kanri_kondankai/dai4/siryou2.pdf(閲覧日:2023年6月13日)
[4] 内閣官房 第1回 管理職のマネジメント能力に関する懇談会(平成28年10月25日)(脚注1と同様)
[5] 「バーチャルチーム」とは、メンバーが離れた場所にいても、電話やメール、チャットなどITツールを活用して機能しているチームのこと。コロナ禍でのテレワークは必要に迫られて導入した企業も多いが、バーチャルチームは以下のようなメリットをとるために企業が進んで導入するものである。
・勤務場所や時間に制約がない
・遠隔地や外国の優秀な人材を採用できる
対して同じ職場で顔を合わせるチームは「リアルチーム」と呼ばれる。
[6] 株式会社ラーニングエージェンシー「【管理職1,070人の意識調査】
管理職の悩みダントツ1位は「部下の育成」/”部下の成長を感じていない”管理職が5年前の3倍に|新着情報|人材育成・社員研修」(脚注2と同様)
「部下が非常に成長している」と回答した管理職は、部下とのコミュニケーション時間が6時間以上(月間)の割合が45.8%となっています。
[7] 「コネクション・カルチャー」とは、従業員同士の心のつながりや関係性を大切にする企業文化のことを指す。モルガン・スタンレーの元最高マーケティング責任者であるマイケル・リー・スタラッド氏が提唱した。日本語では「一体感」という表現が該当する。


参考)
髙坂一郎「コロナ禍で目覚める「管理職の役割」」,『産業能率大学総合研究所』, 2021年4月2日, https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/feature/202006/12-01.html (閲覧日:2021年7月28日)
HRプロ編集部「「管理職層の役割」がビジネス環境の変化で高度化・複雑化。いま求められている支援とは」,『HRpro』, 2020年10月12日, https://www.hrpro.co.jp/trend_news.php?news_no=1479 (閲覧日:2021年7月28日)