導入成功事例 〔株式会社ヤマハミュージックジャパン・後編〕 企業内大学で、全国に散らばるカン・コツ・ツボを「教え合い学び合う」仕組みを構築

〔株式会社ヤマハミュージックジャパン・後編〕 企業内大学で、全国に散らばるカン・コツ・ツボを「教え合い学び合う」仕組みを構築
課題
・「ともに働く仲間の活力最大化」を実現するための組織開発
・多様化・複雑化する社会課題に対応するため、複数の専門性を持つダブルメジャー人材の育成
成果
・2社部⾨横断型、4学部・18学科を持つ企業内⼤学を開校
・講座の内製で、全国の現場に散らばるナレッジを「教え合い学び合う」場を形成

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各業界における人材育成の課題と解決方法をまとめた事例集

各業界における人材育成の課題と解決方法をまとめた事例集

互いのナレッジを共有し「教え合い学び合う」仕組みとは

 

―ヤマハミュージックアカデミーでは、ユーザーはどの学科の講座も受講可能ですが、どのような講座を受講する方が多いのでしょうか?

深水様:現在の仕事のレベルアップを目的に受講する方が多いです。これまでは、各個人が現場や経験で身につけた知識・スキルを伝達する機会が限られていたため、ナレッジが属人的になっていました。

ヤマハミュージックアカデミーでは、各人が培ってきたカン・コツ・ツボをみんなに共有して、お互いに教え合う場になっています。

加藤様:教えてほしい従業員はたくさんいるし、教えられる従業員もたくさんいるのに、これまではマッチングする仕組みがなく、学びの機会を創出できていませんでした。

全国の現場に、仕事のカン・コツ・ツボが散らばっている状態だったんです。それをオンラインでたくさんの人に共有できる土台がやっと出来上がって、今は地ならしをしている段階ですね。

武田様仲間同士だからこそ学べることは、非常に多いと思います。

ヤマハミュージックアカデミーでは、一方の学科では教える立場、他方の学科では教えられる立場になります。そういったフラットな関係の中での学びを大事にしています。「自分のカン・コツ・ツボを共有することで誰かの役に立つ」という考え方こそ、まさに組織開発だと思っています。

 

―教える側になると講座の内容や動画の制作が大変だと思いますが、どういった体制で進めているのでしょうか?

深水様:大学の組織のような学部・学科体制を構築しています。学長は社長で、私たちアカデミー推進・組織開発室は事務局を務めています。学部長、学科長、学科メンバーは2社部門横断で、約100名を選出しています。

事務局からは「半期でこのくらいの講座数は作ってほしい」という数値は示していますが、KPIの予実管理のようなことはやっていません。

2カ月に1回、学部・学科長が参加する推進会議をおこない、そこで実績の共有はしています。「この学科はこんなに講座をつくって頑張っています!すごい!」という感じで。「称賛文化を築く」ことも大事にしていますので、講座制作が進んでいない学科を追及することは一切やらず、進んでいる学科を称賛しています。

講座や動画をどんどん出している学科のメンバーに、打ち合わせの進め方や学科長の関わり方などについてヒアリングをした内容を、各学部・学科長に共有しています。

ただ実績を共有するだけではなく、そこに至るまでの過程をしっかり共有して、やり方のヒントを見つけてもらいたいと考えています。

加藤様:推進会議は名前ほど堅いものではなく、知見や情報の共有会です。事前アンケートで、学科長の現在の悩みや不安などを聞き取って会議資料に投影し、うまくいっている学科長に意見を求めるなどの働きかけをしています。

<アカデミー推進・組織開発室 加藤園美様>

少しずつコンテンツも増えているので、次の推進会議のときにはさらに活発な意見交換をして、いいアイデアを共有できるようになっていると思います。

 

講座の内製はハードルを下げ、スモールスタートで後押し

―現時点で、ヤマハミュージックアカデミーは、全社員の何%の方に利用されているのでしょうか?

武田様:開校して4カ月時点のログイン率は4割弱と、まだ利用が少ない状況です。

人事制度と紐付けて、受けなかったら評価が下がるとなれば、数字を増やすことはできるかもしれません。しかし、ヤマハミュージックアカデミーにおける私たちの挑戦テーマは「自律学習の促進」です。

学習を促進するために「受講しないと評価が下がる」と不安を駆り立て、危機感を煽る方法は有効ですが、あまり気持ちいいものではありません。

そもそも組織開発で目指す組織像として「学習する組織・共感する組織・自走する組織」を掲げており、ヤマハミュージックアカデミーでは「自律学習」を目指しているので、このやり方は相容れないものです。

そこで私たちは、「学習不安」を小さくするアプローチを採用しました。会社全体で取り組む全社運動として、学習を特別なものではなく日常的なものにすることを目指しています。

そこでこだわっているのが、講座の内製化です。仲間がつくった講座であるという手触り感、温度感は企業内大学ならではのものだと考えています。

 

―企業内大学の設立にあたって、どのような体制で進めてきたのですか。

武田様:2社部門横断で、20名からなる企業内大学設立プロジェクトを組成して進めました。私がプロジェクトリーダーを務め、伴走役を企業内大学設立のリーディングカンパニーであるタナベコンサルティングさんにお願いしました。

7カ月間に及ぶプロジェクトでは、2社全部門の業務の棚卸→各業務に必要なスキルの棚卸→スキルの獲得・向上に必要なカリキュラム案作成→講座制作の順で進めました。この順番で取り組んだことによって、講座受講がスキルの獲得・向上につながり、業務の生産性向上にもつながるようにしています。

またプロジェクトメンバーで、カリキュラムの制作体制、最適な受講体制について丁寧に議論した結果、4学部18学科を設置することになりました。現在はプロジェクトのプロセスや熱量を引き継ぐ形で、100名弱の学部・学科メンバーが講座制作にあたっています。

<ヤマハミュージックアカデミー 学部・学科構成>

学科長には、設立プロジェクトの進め方と同じように、効率を求めるファクトリー型ではなく、対話を重視したワークショップ型での学科運営をお願いしています。学科運営も、組織開発の一部であると考えていますので。

 

―内製している講座の特徴を教えてください。

深水様教材作成ツールのeStudioを使って、動画を含むeラーニング教材を制作しています。基本はパワーポイントを動画収録する形です。タイトル、概要、目次があって、コンテンツがあって、最後にスリーエッセンスでまとめるという基本の形があります。

ただ、学科メンバーには、形にこだわらずに講座制作をもっと楽しんでほしいと伝えていまして、撮影した動画を編集した「え?もしやYouTuber?」と思うような面白い教材も出てきています。

加藤様:学習は一過性のものではなく、継続することに意味があります。楽しくないことは継続できないので、いかに講座づくりを楽しんでもらうか、強制せずにいかに講座を受講してもらうかというのが目下の課題です。

 

―社員の方がつくりたいと申請した講座は、基本的には承認する方針なのですか?

武田様:はい。承認と言っても、チェックするのは最低限の内容だけで、質はあまりこだわらなくていいと伝えています。「どうやって質を担保するのか」という意見もありましたが、スタートしたばかりの今はむしろ低めでいいと考えているんです。

すごい動画ばかりアップされていたら、気軽に「自分もつくってみようかな」と思えなくなりますよね? 手を挙げやすくするためにハードルを下げて、「これくらいでいいんだ」と安心して講師側にも挑戦してもらいたいと思っています。何かを始めるときはスモールスタートの姿勢がすごく大事ですから。

YSSアカデミーでの経験から、回を重ねていけば質は自ずと上がっていくと予想しています。すでにヤマハミュージックアカデミーでも、自分たちで自らのハードルを超えようとする雰囲気を感じています。

例えば、学科のチャットを覗くと、「ここはこうした方がわかりやすいかも」という議論が、メンバー同士で活発に行われています。

深水様:最近は「パワーポイントで型通りにつくらなくていいんだ」という認識が少しずつ浸透してきました。真面目に打ち合わせを重ねて、いいものをつくろうと意気込みすぎてしまうと、なかなか進まないケースもありますから、リアルやオンラインで開催した研修内容を、そのまま講座として出してもいいと学科メンバーには伝えています。

加藤様:研修慣れしているメンバーほど、スモールスタートが難しい印象ですね。一般的な研修では型通りのものが大前提なので、崩すことに抵抗があるのだと思います。

無理やりゼロからつくろうとせず、手元にあるものを切り出してショートバージョンにして、プラットフォームにどんどん放り込むだけでもいいんです。そうやって、さまざまな角度から切り口を提案することも、事務局としての必要なサポートだと感じています。

 

自走する組織に共通するリーダーシップとは

―講座作りがうまく進んでいる学科には、共通点はあるのでしょうか?

深水様:教室学科は、メンバーを上手く巻き込んで、定期的に打ち合わせの機会をつくって活発に議論しています。

<アカデミー推進・組織開発室 深水舞子様>

メンバーが「私達がファーストペンギンになってしまおう」と言っていたのも、すごく印象的でした。質への期待値が上がった状態で1本目を出すのは辛いし、まずはもう私達がやっちゃおう!と先陣を切ってくれたんです。

武田様:教室学科は、学科長がサーバントリーダーに徹している点がいい方向に作用していると思います。リーダーが縁の下で支え、メンバーが議論や挑戦しやすい環境づくりをしていますね。

また、動画の本数では小売学科も負けていません。小売学科はリーダーが「なにか面白いことをやろう!」とメンバーを鼓舞して、引っ張っているような感じがありますね。

深水様:逆に思うように進んでいない学科は、学科長が「自分が全部やらなければ」と背負い込んでしまっていたり、チームビルディングができていないのかもしれません。

加藤様: 推進会議は2月に2回目を開催したばかりで、そこで初めて運営に関する好事例を共有できたので、今後の変化に期待したいです。

武田様:今回の学科運営では、学科長にはサーバントリーダーシップを、学科メンバーにはシェアドリーダーシップを発揮してもらいたいと考えています。2社部門横断的に構成された、今までの職場と違うメンバーの中で、自分がどのようなリーダーシップを発揮するかは新しい挑戦です。このチャンスを生かしてくれたら嬉しいですね。

深水様:上手くいっている学科は、学科長を含めて「みんな面白いことやろうよ」という気持ちが強いです。

教室学科は、講座用の動画以外に、打ち合わせの様子や動画制作の様子をメイキング動画にして公開してくれました。ワイガヤで制作を楽しんでいる様子を見ると、講座の方にも興味が沸いてきますね。

武田様:講座制作も受講も、とにかく楽しんでほしいと考えている私たちにとって、教室学科はロールモデル的な存在です。楽しくないことは継続できないので、とにかく楽しんでほしいですね。

そのために、学部・学科に紐づかないコンテンツも公開できるようにしています。「社員のShine!」という、輝いている社員の活動やマインドを紹介するスペシャルコンテンツなどもあります。

 

「学びの場」から「学習コミュニティ」へ。理想の具現化を目指す

―学習を継続するための時間の確保は、制作側と受講側の双方にとって重要だと思います。時間管理について、なにか働きかけているのでしょうか?

武田様:制作も受講も業務時間内におこなうようにお願いしています。小売の現場では、学びの時間をいかに確保するかが課題なので、動画は10分から15分程度の長さを基本にしています。最近では1分講座も登場しました。

業務ではありますが強制ではないので、講座の受講率は低めです。他社では「現状の組織風土」に合わせて受講率が高まる仕掛けをつくるケースが多いようですが、私たちがチューニングしているのは未来の「理想とする組織風土」です。

ありたい姿に向けてやっているので現状とのギャップも大きく、ジレンマも抱えています。もちろん、強制力で受けさせたほうが受講率は上がります。でも、それでは理想とする組織、社員が誇れる組織は生まれません。

時間はかかりますが、将来ありたい姿に向けて全員で一歩ずつ進んでいけば、いつかは理想とする「自律学習」「自走する組織」を実現できると考えています。

 

―ヤマハミュージックアカデミーの成功、理想の実現をゴールとしたとき、今はどのあたりにいると感じますか?

武田様:1000分の1歩ぐらいですね。時間がかかる前提でやっています。YSSアカデミーも、スモールスタートから始めて今では軌道に乗っていますので、同じような見通しを持っています。

いつか学部や学科も関係なく、従業員みんなが自分で動画をつくり始めるかもしれないですね。それぞれが自然発生的に、事務局がなくてもアカデミーが回るようになれば最高だと思っています。

 

―ヤマハミュージックアカデミーの今後の展望についてお聞かせください。

<アカデミー推進・組織開発室 武田信次郎様>

武田様「従業員の・従業員による・従業員のためのアカデミー」として、今後も従業員が講師を務める内製講座を充実させていきたいですね。暗黙知を形式知に、属人的なスキルとして埋もれていた「たくみ」を全社的な「しくみ」に変えて浸透させ、守破離を実現していければと思っています。

また、「ともに働く仲間の活力最大化」という組織開発目標を達成するために、ヤマハミュージックアカデミーを単なる「学びの場」ではなく、双方向のコミュニケーションが自然に発生する、教え合い学び合う「学習コミュニティ」のレベルに昇華させていきたいです。こんな体験でこんな学びがあった、この本を読んでこんな気づきがあったなど、もっとカジュアルに学びを軸にしたコミュニケーションができる場になればと考えています。

まだまだ理想と現実のギャップは大きいのが現状ですが、理想を語ることを恐れず将来にチューニングを合わせて、従業員が誇りと自信を持って働く組織の実現を目指します。

 

<終>

 

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